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新潟地方裁判所 昭和59年(行ウ)5号 判決

新潟県長岡市今朝白二丁目五番一号

原告

東亜木材株式会社

右代表者代表取締役

小島義雄

右訴訟代理人弁護士

塩津務

新潟県長岡市南町三丁目九番一号

被告

長岡税務署長

野本昭

右指定代理人

細田美知子

郷間弘司

青木清榮

若井正之

辻徹

星野一雄

石井勝巳

金井秀夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五六年七月七日付でした原告の昭和五三年八月一日から昭和五四年七月三一日までの事業年度の法人税の更正のうち所得金額七三四七万四五一一円、納付すべき税額三二六六万〇九〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、審査裁決による変更後のもの)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1(一)  原告は、木材等の卸販売を業とする会社であるが、昭和五三年七月一日から昭和五四年七月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)分の法人税について、所得金額七三四七万四五一一円、納付すべき税額三二六六万〇九〇〇円との確定申告をした。

(二)  被告は、昭和五六年七月七日、原告に対し、所得金額を二億五七一九万九三八一円、納付すべき税額を一億〇〇六〇万六六〇〇円と更正(以下「本件更正処分」という。)するとともに、過少申告加算税として三三二万八七〇〇円の賦課決定をし、重加算税として四〇万一〇〇〇円の賦課決定をした。

(三)  原告は、右各処分に対し審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、昭和五九年四月二五日、本件更正処分に対する審査請求を棄却し、右重加算税賦課決定を取り消したうえ、右過少申告加算税賦課決定については、その税額を三三九万七二〇〇円と変更(以下変更後の過少申告加算税賦課決定を「本件賦課処分」という。)する旨の裁決した。

2  しかし、本件更正及び賦課処分は違法である。

3  よつて、原告は、本件更正処分のうち所得金額七三四七万四五一一円、納付すべき税額三二六六万〇九〇〇円を超える部分及び本件賦課処分の取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否及び被告の主張

(認否)

請求の原因1の事実は認め、同2の主張は争う。

(被告の主張)

1 原告の本件事業年度における所得は次のとおり二億五八一九万九三八一円であつた。

(一) 確定申告による所得金額 七三四七万四五一一円

(二) 加算すべき金額

(1) 資産整理益計上漏れ額 九億三七七七万五八四六円

(2) 貸倒引当金繰入限度超過額 四五万九〇二一円

(3) 外注費否認額 二七万〇〇〇〇円

(三) 減算すべき金額

(1) 売上過大計上額 三〇五万九二六八円

(2) 貸倒引当金戻入認否額 七二一万一五四九円

(3) 繰越欠損金の損金認容額 七億四三五〇万九一八〇円

(四) 差引合計 二億五八一九万九三八一円

2 原告は、本件事業年度における資産整理益を一億三二〇三万六四四三円と申告していたが、この金額は、土地売却益等からなる資産処分益一〇億七五〇二万二二八九円から整理特別損失九億四二九八万五八四六円を差し引いたものであつた。

ところで右整理特別損失のうち九億三七七七万五八四六円は、過去の事業年度において事実を仮装して経理したところに基づく受取手形、売掛金、たな卸資産等の過大計上及び支払手形、買掛金、預り金等を過少計上していた金額を当期において修正の経理をしたというものであつた。

しかし、右のような仮装経理による所得金額の過大申告分というものは、あくまでも当該事業年度分限りのものであつて、本件事業年度分の損金としては認められないものであるから、被告は右九億三七七七億五八四六円を所得金額に加算したものである。

3 原告は、右のとおり本件事業年度において、過去の事業年度において仮装の経理方法で過大に申告した金額相当額を整理特別損失勘定で損金の額に計上していた。

右の過大申告は、法人税法一二九条二項に規定する事業を仮装して経理したところに基づくものであり、また整理特別損失勘定で損金として経理したことは、同項に規定する当該事業に係る修正の経理をしたものと認められたので、被告は昭和五六年七月七日、次のとおり名事業年度分の原告の所得について更正処分をした。

(一) 昭和五一年七月期欠損 一億二三〇五万七〇五二円

(二) 昭和五二年七月期欠損 三億七三四〇万一八一六円

(三) 昭和五三年七六期欠損 二億八四二三万四四七九円

(四) 合計欠損 八億〇〇六九万三三四七円

そして、右のとおり本件事業年度前の名事業年度分について更正処分があつたので、本件事業年度分の所得金額の計算上損金の額に算入される繰越欠損金額は、八億〇〇六九万三三四七円となつた。

そこで、被告は、原告が本件事業年度分の確定申告において既に損金算入をしていた繰越欠損金五七一八万四一六七円を超える七億四三五〇万九一八〇円も繰越欠損金として認容し、所得金額から減算したものである。

なお、原告は、仮装の経理方法の結果、申告していなかつた欠損金額として、昭和四七年七月期の八九八〇万七一一三円及び昭和五〇年七月期の五二九九万一〇〇四円の合計一億四二八〇万八一一七円の欠損をも、本件事業年度において整理特別欠損勘定で損金の額に計上していた。

ところで、国税通則法七〇条二項の規定によれば、その更正に係る国税の法定申告期限から五年を経過したときには減額更正はできないのであり、原告の場合には昭和四九年七月期については昭和五四年九月三〇日、また昭和五〇年七月期については昭和五五年九月三〇日を経過して減額更正はできないところ、被告が昭和五四年七月期の整理特別損失の内容を具体的に調査確認し右各更正処分を行つたのは、昭和五六年七月七日であつてすでに減額更正処分が可能な期間を経過しており、被告は、昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期については減額更正処分を行つていない。

したがつて、昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期において生じた欠損金額はないから、本件事業年度の操越欠損金の計算上昭和四年七月期及び昭和五〇年七月期に生じた欠損金額はないものとして本件更正処分を行つた。

以上のとおりであるから、本件更正処分は適法である。

4 本件賦課処分における過少申告加算税の額三三九万七二〇〇円は、本件更正処分により納付すべき税額六七九四万五七〇〇円について、昭和五九年法律第五号による改正前の国税通則法六五条一項の規定に基づくものであり、本件賦課処分の適法である。

三  被告の主張に対する認否及び原告の反論

(認否)

被告の主張中、1の(一)、(二)(2)及び(3)並びに(三)(1)及び(2)の各金額はいずれも認めるが、その余はすべて争う。

(原告の反論)

1 青色申告の繰越欠損金控除の規定(法人税法五七条)の意義を考慮すれば、当該控除年度の更正自体が国税通則法七〇条二項に抵触しない限り前五年度は更正できることが当然の前提になつている。

本件においては、本件事業年度の更正は同項の期間制限に抵触しないであるから、前五年度分である昭和四九年度から昭和五三年度までの分は当然に更正できる。

2 国税通則法七〇条二項が規定する五年の期間内に、納税者が減額更正のための調査に着手した場合には、同項の期間制限に抵触しないと解すべきである。

原告は、昭和五三年七月一日以後減額更正のための調査に着手したのであるから、同項の期間制限には抵触しない。

3 国税通則法七〇条二項が規定する五年の期間内に、納税者が税務署長に対し減額更正を求める意思を明らかにして具体的に減額更正のための調査活動を開始した場合あるいは税務署長の了解または要請に基づいて納税者が減額更正のための具体的な調査活動を開始した場合には同項の期間制限に触れないと解すべきである。

本件においては、本件事業年度の確定申告から本件更正処分に至るまでに次のような事実経過がある。

(一) 原告は、本件事業年度の確定申告に際しては、昭和四九年七月期から昭和五三年七月期までの各事業年度の過大申告分を本件事業年度の整理特別損金について一括修正経理をなし、過年度において発生した欠損金についてその詳細を申告書の付属書類に具体的に記載して提出したが、その後昭和五四年一〇月ころ、被告に対し、昭和四九年七月期から昭和五三年七月期までの各事業年度分について真実に応じた更正をするよう要請し、自主申告制度の建前から自ら調査し、その報告をする旨述べたところ、被告はこれを了承した。

(二) 昭和五四年の暮には、昭和四九年七月期、昭和五〇年七月期の実態の究明が完了し、原告は、被告に対し、この旨を申し述べたが、被告は昭和四九年七月期から昭和五三年七月期までの全体の調査終了を待つて一連の事案として更正するということであつた。

(三) 原告は、調査結果について再三被告から報告の督促を受けたが、なかなか結論が得られず報告ができなかつたが、昭和五五年九月二〇日に、原告は被告に対し調査した書類を提出した。

(四) その後被告において確認調査に手間取り、昭和五六年七月七日に基本的には原告提出の調査結果によつて、昭和五一年七月期から昭和五三年七月期及び昭和五〇年七月の更正は、国税通則法七〇条二項の五年の除斥期間に抵触するのでできないということであつた。

以上の事実経過によれば、昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期についても国税通則法七〇条二項の期間制限には抵触しない。

4 原告は、被告に対し、昭和五五年九月二〇日、更正を受けるべく原告の調査結果を上申したのであるから、少なくとも昭和五〇年七月期については、昭和五五年一〇月末まで更正の期間制限に抵触せず更正できたのであるから、被告が昭和五〇年七月期の更正を行わなかつたのは違法であり、この点において本件更正処分は違法である。

5 原告の本件事業年度における申告が過少であつたとしても、それは本件更正処分が遅れたために更正の除斥期間が経過したことにより、結果的に生じた事態であるので、本件賦課処分は違法である。

四  原告の反論に対する認否及び被告の再反論

(認否)

原告の反論はすべて競う。

(被告の反論)

1 一般に納税者が自らの申告により確定させた税額が過大であり、あるいは還付金相当額が過少であるなどを法定申告期限後に気づいた場合に、納税者の側からその変更、是正のため必要な手段をとることを可能ならしめてその権利救済に資する制度として、国税通則法二三条(更正の請求)があり、この規定は、納税申告書を提出した者がその申告に係る税額が過大であることを知つた場合に、原則としてその法定申告期限後一年以内に限り、税務署長に対しその税額等につい更正をすべきことを請求することができることとしており、納税者の権利救済制度は、右条文によつて十分に機能しているのである。このように更正の請求の期限を原則として法定田告期限後一年以内に限つたのは、税法において申告期限を定めて納税者がその期間内に充分な検討をした後期限内申告を行うことを期待する建前をとつているので、その期限後いつまでもこのような請求を認めることは適当でないし、また租税債務を可及的速やかに確定せしむべき国家財政上の要請に応ずるものである。

したがつて、原告の昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期について、過大申告があつたのであれば、右規定により所定の期限内に被告に対し救済を求めるべきだつたのであり、その期限を徒過した後においては、もつぱら税務官庁の職権による更正処分により行われることになる。

そして、国税通則法七〇条二項は、減額更正について、その更正に係る国税の法定申告期限から既に五年を経過したものについては、更正の除斥期間は納税者の権利擁護の見地から定められたものではなく、あくまで課税の公平及び統一的な行政の執行等を考慮し、行政の適正な運営を図るために設けられたものであるから、減額更正の期間制限はその解釈によつてその修正が行われるべきものではない。

したがつて、本件事業年度の確定申告から本件更正処分に至るまでに原告の主張するような事情があつたとしても減額更正の期間制限に抵触しなくなるわけではない。

2 昭和五〇年七月期については、原告が調査の結果を被告に報告したと主張する昭和五五年九月二〇日のわずか一〇日後の同三〇日を経過すると更正処分はできないのである(原告が被告に申告期限の延長の特例の申請書を提出したのは昭和五一年七月期以降についてであり、昭和五一年七月期以降については、法定申告期限から五年を経過するのは該当年の一〇月三一日であるが、昭和五〇年七月期については昭和五五年九月三〇日である。)。被告は、原告の本件事業年度を含む各事業年度の所得について原告の申告が被告の調査したところと異なつていたから更正したものであり、しかもその調査は、それぞれ各事業年度の所得の適否を全体として判断するものであつて、原告が主張する過大申告部分だけを確認すれば足りるものではない。

したがつて、一〇日間というわずかな期間に複雑多岐にわたる仮装経理の内容を確認し、更に全体としての所得の適否を判断するのは不可能だつたのであり、被告が昭和五〇年七月期の更正を行わなかつたことが違法であるとはいえない。

3 原告は、本件事業年度の確定申告の際昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期の所得について未だ本件更正処分が行われていなかつたものであるから、資産整理益を圧縮することなく決算に計上して申告すべきであつたものであり、本件賦課処分は適法である。

第三証拠

本件記緑中の書証目緑及び証人等目緑記載のとおりであるからこ、これを引用する。

理由

一  請求の原因1の事実並びに被告の主張1の事実中、(一)、(二)(2)及び(3)、(三)(1)及び(2)の各金額は、当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない甲第一、第二、第四号、証人安藤彦次郎の証言により真正に成立したものと認められる甲第三号証並びに証人安藤彦次郎及び同丸山英功の各証言によれば、原告は、本件事業年度分の確定申告書の添付書類である損益計算書における特別損益の部において、整理特別損失として九億三七七七万五八四六円を計上していたが、このうち九億三七七七万五八四六円は、過去の事業年度において受取手形、売掛金、たな卸資産等を過大計上し、支払手形、買掛金、預り金等を過少計上していた金額を当期において修正の経理をしていたものであることが認められる。

右のような所得金額の過大申告分は、当該事業年度の損金として認められるものであつて、本件事業年度分の損金としては認められないものであるから、被告が本件更正処分において九億三七七七万五八四六円を所得金額に加算したことは正当である。

三  前掲甲第一ないし第三号証、成立に争いのない甲第五ないし第七号証並びに証人安藤彦次郎、同秋山孝介及び同丸山英功の各証言を総合すると、以下の事実が認められる。

被告は、昭和五一年七月期については、一億二三〇五万七〇五二円、昭和五二年七月期についは三億九三四〇万一八一六円、昭和五三年七月期については二億八四二三万四四七九円の減額更正処分を行つた。そして、このとおり本件事業年度前の各事業年度分について減額更正処分があつたので、本件事業年度分の所得金額の計算上損益の額に算入される繰越欠損金額が八億〇〇六九万三三四七円となつたので、被告は、原告が本件事業年度分の確定申告において既に損金に算入していた繰越欠損金五七一八万四一六七円を超える七億四三五〇万九一八〇円も繰越欠損金として認容し、所得金額から減算して本件更正処分を行つた。

四  これに対して、原告は、原告の各事業年度における所得の過大申告金額としては、昭和四九年七月期の八九八一万七一一三円及び昭和五〇年七月期の五二九九万一〇〇四円もあるのだから昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期についても減額更正処分を行い本件事業年度の繰越欠損金に算入すべきであると主張し、被告は、本件更正処分を行つたのは昭和五六年七月七日であり、昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期については国税通則法七〇条二項の五年の除斥期間に抵触して減額更正処分を行うことはできず、昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期において生じた欠損金額はないから、本件事業年度の繰越欠損金の計算上昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期の所属の過大申告金額を考慮することはできないと主張する。

右に認定したとおり、本件更正処分が行われたのは昭和五六年七月七日であり、この時点においては昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期については国税通則法七〇条二項が規定する五年の除斥期間に形式的には抵触することになる。これに対して、原告は様々な理由をあげて昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期の減額更正も右五年の除斥期間に抵触しないと主張するので、以下この点について検討する。

1  原告は、青色申告の繰越欠損金控除の規定の意義を考慮すれば、当該控除年度の更正自体が国税通則法七〇条二項に抵触しない限り前五年度分は更正できることが当然の前提になつていると主張する。

しかし、本件の場合のように過去の事業年度について減額更正処分を行うことによつて当該控除年度の繰越欠損金が増額されるという場合には、過去の事業年度の減額更正が国税通則法七〇条二項の規定に抵触しない場合に初めて当該控除年度の繰越欠損金の額を更正できるのであり、原告の主張は独自の見解であり、採りえない。

2  次に、原告は、国税通則法七〇条二項が規定する五年の期間内に、納税者が減額更正のための調査に着手した場合若しくは納税者が税務署長に対し減額更正を求める意思を明らかにして具体的に減額更正のための調査活動を開始した場合または税務署長の了解ないし要請に基づいて納税者が減額更正のための具体的な調査活動を開始した場合には、同項の期間制限に触れないと解すべきであると主張する。

そこで、国税通則法七〇条二項二号の立法趣旨を検討するに、同号は租税法律関係の早期安定をはかるために減額更正を五年間の除斥期間に服するものとしたものであると解される。このように同号は除斥期間を定めたものであるから、消滅時効の場合とは異なり中断事由を認める余地はなく、原告が主張するような事由がある場合には一般的に同号の期間制限には触れないと解することはできない。

3  次に、本件において右除斥期間の規定の適用が許されないと解すべき特別の事情が存するか否かを検討する。

前掲甲第二ないし第四号証、証人丸山英功の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一一号証の一ないし四甲第一二号証の一ないし七並びに証人安藤彦次郎(後記措信しない部分を除く。)同吉田健(後記措信しない部分を除く。)同秋山孝介(後記措信しない部分を除く。)及び同丸山英功の各証言を総合すれば、本件更正処分に至る経緯については、次の事実を認めることができる。

(一)  原告は、本件事業年度の確定申告に際して、申告書の付属書類として資産整理の内訳及び明細説明と題する書面を提出して過年度において発生した欠損金についての説明を行つているが、そこには「昭和五〇年、五一年、五二年、五三年の四期に及ぶ膨大な書類のため簡単に結論に達することは不可能で、当期末までに作業は終了できなかつた。

しかしながら、各期毎に明確に経過を判明できなかつたとしても、総体として資産が失われ損失が発生したことは明らかであるので、欠損処分にするとともに、この件に関連する損益を集合して決算表示することになつた。なお目下更に調査は継続されているので、遠からず各期毎にその内容が明らかにされるはずである。」と記載されているにすぎず、過年度において発生した欠損金についての右書面における説明は極めて概略的なものである。

(二)  昭和五四年一一月ころ原告代表者の小島義雄(以下「小島」という。)、原告の顧問税理士安藤彦次郎(以下「安藤」という。)の三名が長岡税務署を訪れ、吉田健法人源泉第一統括官(以下「吉田」という。)に対して過年度において原告が粉飾していた概略の数字及び調査に日時がかかることを報告した。

(三)  吉田は、昭和五五年三月ころ所用で安藤の事務所を訪れたが、この際安藤は吉田を過年度の欠損金の調査をしている部屋に案内し、解明している資料が膨大であるとの説明を行つた。

(四)  小島と安藤は、昭和五五年五月二六日長岡税務署へ行き、吉田に対して過去五年分についての解明は大体できているが、最後の二年間については不明な点もあるので解明はできていないとの報告を行つた。

(五)  その後、昭和五五年九月二〇日、小島、安藤、丸山の三名が長岡税務署へ行き、保坂保治法人源泉第一統括官、秋山孝介法人源泉第二統括官に対して、過年度に生じた欠損金について各年度ごとに具体的な数字を示して細い説明を行い、更正の要請をした。

以上の事実が認められ、右認定に反する証人安藤彦次郎、同吉田健及び同秋山孝介の各証言部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、原告が被告に対して昭和四九年七月期までの所得について具体的な根拠を示して更正の要請を行つたのは、昭和五五年九月二〇日であるが、被告の指示に従つたために更正の要請が遅れたと認めることはできない。また原告が更正の要請を行つた昭和五五年九月二〇日にはすでに昭和四九年七月期については五年の除斥期間が経過しており、昭和五〇年七月期についても同月三〇日を経過しては更正ができなかつた(成立に争いのない乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、昭和五〇年七月期については原告から申告期限の延長の特例の申請書が提出されていないことが認められ、昭和五〇年七月期については五年の除斥期間が経過するのは、昭和五五年九月三〇日である。)のであるから、昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期について除斥期間が経過したことについて、被告に特段の責められるべき点があるとはいえない。

したがつて、本件において右の五年の除斥期間の規定の適用が許されないと解すべき特別な事情が存するとはいえない。

五  以上によれば、昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期について減額更正処分が可能な期間を経過しているとして減額更正処分を行わず、本件事業年度の繰越欠損金の計算上昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期に生じた欠損金額はないものとして行われた本件更正処分は正当であり、これに基づいて行われた本件賦課処分も右一、二及び三3(一)において認定した原告の確定申告の際の事情に照らして正当である。

六  よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野寺規男 裁判官 高橋徹 裁判官 山本剛史)

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